日本共産党 参議院議員 党副委員長
山下よしき

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途上国支援 化石燃料の延命に と参考人

参議院環境委員会 2024.6.6
速記録 動 画

参院環境委員会は6日、発展途上国への「脱炭素」支援による温室効果ガス削減分を自国の削減分にカウントできる「二国間クレジット(JCM)」の体制整備を行う地球温暖化対策推進法(温対法)改定案の参考人質疑を行い、日本共産党の山下芳生議員が質問しました。

東京大学の高村ゆかり教授は、世界の平均気温上昇を産業革命前から1・5度以内に抑える目標が達成できなければ、人類の存続が危ぶまれる状況になるとし「日本の国民の命と財産に大きくかかわる問題として対応する必要がある」と指摘しました。

世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之自然保護室長は、途上国での削減への貢献を、国内での削減分にカウントするのはやめ、別枠にすべきだと主張。「途上国が自分でできたかもしれない削減機会を持ってきてしまう可能性があり、問題がある」と述べました。

国際環境NGO「FoE Japan」の深草亜悠美事務局次長は「日本政府は化石燃料事業への国際的な融資を続けており、気候資金は少ない」と指摘。日本の支援には、水素やアンモニア、バイオマスを化石燃料と混焼することや、二酸化炭素(CO2)を海底などに貯留するCCSが含まれており「化石燃料の延命につながる」と指摘しました。

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○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
お三方、ありがとうございます。また、気候変動対策について様々に日頃から御提言をいただき、ありがとうございます。
まず、山岸参考人と深草参考人にJCMについて伺います。
お二人とも、途上国での削減に貢献したことを国内での削減にカウントするオフセットではなく、国内目標の外側で行うことが大事だという御主張だったと思いますが、更に詳しく伺いたいんですが、その際に三つの観点で御意見いただきたい。
一つは気候変動の危機的現状という観点から、二つ目に気候正義という観点から、そして三つ目にそのほか何かお考えがあれば御説明いただきたいんですが、いかがでしょうか。

○参考人(山岸尚之君) ありがとうございます。
三つの視点での御質問、ありがとうございます。順番に端的に、なるべく端的にお答え申し上げたいと思います。
気候危機の観点で、一つ身近な事例といいますか、ちょっと意外な事例を出させていただきますと、近年、パナマ運河の水位が干ばつによってちょっと下がってしまっていて、そもそもパナマ運河を通れる船の数を減らすという措置がとられています。これは別に気候変動の影響を受けた干ばつのせいだけではなくて、当地での管理の不足といった問題もあるそうなんですけれども、一つ大きな背景として気候変動の影響といったものがあります。パナマ運河を通ることができる船の数が減れば、日本が輸送で使いたい船の数も減ってくるし、そのときに果たして日本を優先してくれるのかどうかといったような問題も、日本向けの輸送を優先してくれるのかどうかといった問題も発生し得ます。
このような形で、気候変動の危機というのは、一体どのような形で我々の生活に降りかかってくるのかというのはフルでは分かっていない部分があります。我々の経済安全保障自体に対しても大きな影響を与え得る問題ですので、このようなことを考えたときに、なかなか遠回りで恐縮ではございますが、世界全体の削減量をなるべく増やす方向でいかなければいけないと。
つまり、先ほどからの主張の繰り返しになりますけれども、JCMを国内削減目標の代替としてカウントしてしまえば、世界に対して持っている貢献度合いは、ありていに言えば、四六%削減目標から増えもしなければ減りもしないという状況になってしまいます。これをそのままでいいんでしょうか、足りない、足りないとみんな分かっているのに、ここにプラスをしなくていいんでしょうかということだと思っています。これが第一の観点から。
第二の観点からは、これも難しい問題ではあるんですけれども、気候正義の観点からいいますと、やはり途上国における安い削減機会を奪う可能性もあるということでございます。
パリ協定の制度上、途上国でJCMをやった場合、その削減クレジットを日本に持ってきたら、少なくともその削減クレジット分は途上国で削減が起きていないということにしないといけないんです。これは当たり前ですけれども、それもし起きているというふうにしてしまったら同じ削減を二度カウントするということになってしまいますので、制度上、必要な措置ではございます。
ただ、それは逆に言えば、途上国における安い削減機会、ひょっとしたら自分たちの発展の中でできたかもしれない削減機会を持ってきてしまう部分でもあるわけです。そこについては十分注意をして、助けるならいいです、助けるならいいけれども、日本のために使うために持ってくるのだとちょっと問題がある部分も中にはあるかもしれないということは十分注意をして使う必要があると考えています。現状、その問題が顕在化しているかといえば、そこまでではないと思いますけれども、これからないとも限らないので、十分注意をしていく必要があります。
ちょっと話が長くなってしまいましたので、三番目について省略をさせていただきます。
以上です。

○参考人(深草亜悠美君) 御質問ありがとうございます。
今、山岸参考人がおっしゃられたことに同意で、今、全ての国がNDCを提出して、削減義務、削減をやっていかないといけないわけですので、このように日本に削減分を持ってくるというのの是非ですね、また、自分たちの削減につながったかもしれないのにというのは、本当にそもそもこのオフセットのメカニズムを考える上で重要な視点ではないかなと思います。
一点目の気候危機という観点でなんですけれども、やはり、そもそもの議論としてどうしても削減できない部分をという前提があるかと思うんですが、今日話に出ていますように、日本の化石燃料依存に対する取組が本当に十分できているのかということは問題提起したいと思います。
G7でも、またCOPの場でも化石燃料からの脱却というのはコミットされておりますし、また、その二〇三五年までの対策の取られていない石炭、火力の廃止ということなんですけれども、日本政府の取組ではそこまで深掘りした議論はされていないと私は理解しています。
また、公的支援に関しても、G7の中で国際的な化石燃料事業に対する公的支援の停止というのを二〇二二年末に行うということをエルマウのときにコミットしているかと思うんですが、日本政府は、公的金融機関、JBIC、NEXI等が今も新規の化石燃料事業に融資を続けている状況です。その額は非常に大きなもので、既に気候変動の影響が出ている途上国にとって気候資金の拠出が巨額に求められている中で、化石燃料には融資をするのに気候資金は少ないとなると、本当にできる努力をしているのかということは問い、また行動の深掘りを足下でしていくべきだと思っています。
以上です。

○山下芳生君 ありがとうございます。
高村参考人に伺います。
気候変動の危機的現状についてなんですが、先生のこの資料、五ページ目の一・五度目標と削減目標、NDCのギャップ、各国の二〇三〇年削減目標を全て達成したとしても一・五度目標達成の排出削減経路には乗らないという、この図を見れば、私はいつもぞっとするんですけれども、このギャップを人類社会は与えられた僅かな時間で克服することができるんだろうかということなんです。その点で先生にお伺いしたいのは、日本政府は時々、気候変動対策における国益という表現をすることがあります。
私は、この図が示しているのは、各国政府の狭い意味での国益にとらわれている場合ではないと、一・五度目標を達成できないともう人類の生存が危ぶまれる状況になるわけですから、もうそうなってしまえば国益そのものが無意味になるということですので、私は、気候変動対策においては狭い意味での国益にとらわれるのではなくて、地球益を最優先とした行動が必要になっているんではないかと思いますが、高村先生のお考え、伺いたいと思います。

○参考人(高村ゆかり君) 山下先生、どうもありがとうございます。
このスライドの五番目にお示しをしているとおりでして、一・五度目標を達成する可能性がやはりごく小さくなってきているという科学者の大変強い懸念がございます。一部の若い世代には、非常に諦め感ないしはテイセイ感といいましょうか、そうしたことを発言をする、そういう人たちもいます。
気候変動対策についていいますと、一つ重要なのは、現在の状況でも気候変動に起因をする経済損失、人的な損失が日本にとっても極めて大きいという点です。
二〇一九年、覚えていらっしゃる先生方も多いかと思いますが、台風十五号という、房総域停電になった台風ですね、台風十九号、十月に参りましたが、この二つだけで二百五十億米ドルの経済損失です。お亡くなりになった方も百名。昨年の熱中症による健康被害、五月から九月までで九万一千人を超えているわけです。
そういう意味で、気候変動対策は、もちろん世界の気候変動をどう、世界の課題である気候変動をどうするかという問題でもあるんですが、実は日本の、日本の国民の命と財産に大きく関わる問題になっているというふうに思っています。これ、恐らく先生がおっしゃる狭い意味での国益ではない意味でありますけれども、その意味で、日本としてしっかりこの問題に対応する必要があると思います。
もう一つ申し上げると、同時にやはり日本にとって、先ほどこのJCMが一つの例ですけれども、その国際貢献を日本にとってプラスになるような形で進めていく可能性というのは、これは私、全体として気候変動対策の水準を上げる上では必要ではないかというふうに思っています。先ほどありました省エネ技術ですとか脱炭素のエネルギーのあるいはサービスを提供していく、こういうビジネスの展開とともに進めるというのは、全体としての気候変動対策の加速の上では、適切に進めることは条件ですけれども、必要な政策ではないかと思っております。

○山下芳生君 ありがとうございます。
深草参考人に、JCMに関わって、現に日本企業がアジア各国で脱炭素と称して行っている支援の内容と問題点、いろいろお考えだと思いますが、例えば、先ほど余り説明されなかったCCSについての資料もありますので、現に日本が行っているアジア各国への脱炭素と称する支援の問題点など、御意見あったら伺いたいと思います。

○参考人(深草亜悠美君) 御質問ありがとうございます。
今御質問いただいたCCSについて非常に大きな懸念を持っております。
日本政府は、二〇五〇年までに現在の排出の一〇%から二〇%に当たるようなCO2をCCS、炭素回収・貯留で対策するというような方向性も示しておられますが、国内での貯留地もまだなくて、企業等が海外にCO2を運んで貯留するというような話も進んでいます。
こういった取組に対しては、アジアの市民社会から、これはCO2という廃棄物を投棄する行為ではないかというような批判の声も上がっています。
JCMの関わりでいえば、このCCSをJCMで認めるかどうかということを、そしてその方法論を議論されていると認識していますが、国内での安全性ですとか、国内で事業をすることも想定されていると思いますけれども、また、その回収、貯留に非常に大きなエネルギーとコストが掛かるということを考えると、二〇三〇年、二〇五〇年のネットゼロには到底間に合わない、そして環境社会影響も無視できない、そういった観点から私としては非常に大きな懸念を持っているところです。
また、日本政府の、よく議論になるその石炭火力に対策を講じているか講じていないかということが、国際的にも議論が、アベートメント、アンアベーテッドと、そういった英語ですけれども、こちらは、国際的には例えばIPCCなどは九〇%以上の排出を削減できているものですとか、国によってはCCSを認めたりしているとは思いますけれども、これを、日本政府は水素やアンモニア、バイオマス混焼を行っても対策になるというふうに解釈されていると理解しています。
しかし、既に述べさせていただきましたとおり、水素やアンモニアというのも現状は化石燃料由来のもので、排出のときだけを見ればカーボンニュートラルかもしれませんが、サプライチェーンで見ると全く脱炭素化には資さないと。こういったものを脱炭素化としてアジアで広げようとしているということは非常に懸念ですし、結局、既存の化石燃料インフラの延命につながるというふうに私は考えています。
以上です。

○山下芳生君 時間が来たので終わります。