日本共産党 参議院議員 党副委員長
山下よしき

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石綿救済法 国と原因者は責任果たせ

参議院環境委員会 2022.6.10
速記録

石綿救済法は、二〇〇五年、大手機械メーカー「クボタ」の旧工場(兵庫県尼崎市)周辺での深刻な被害が明らかになり、これを契機に、翌年、工場周辺の住民や従業員の家族、一人親方など、労災保険制度で補償が受けられない石綿被害者に、不十分ながら、医療費・療養手当を支給し、遺族には弔慰金を支給するものとして成立しました。

その後、今年三月末にその請求期限が切れましたが、患者団体の要望を受け、議員立法でこれを十年延長する改正案が提出されました。この改正案は、六月十日、参院環境委員会で採決され、効果的な広報と周知などを求めた附帯決議をつけ、全会一致で可決されました。採決に先立つ質疑で、日本共産党の山下芳生議員は被害者、遺族への制度の周知徹底を求め、国が責任を持って対応するよう迫りました。

山下議員は石綿による中皮腫死亡者の現状について質問。厚労省の小林高明審議官は「平成二十七年(二〇〇五年)から令和元年(二〇一九年)の中皮腫による死亡者数は、いずれも年間千五百人前後で推移をしており、依然として、労災保険制度や石綿救済法の対象となる方が多くいる。石綿による被災労働者や御遺族が確実に補償を受けられるよう、労災保険制度及び特別遺族給付金制度の周知を図る」としました。

山下議員はその周知について「一九九五年から二〇〇五年の死亡診断書については三千六百十三件個別周知されたが、二〇〇六年から二〇一六年の死亡診断書については四百三十件しか個別周知されていない」と指摘。厚労省の小林高明審議官は、当該調査が関東甲信越ブロックのみが落札され取組まれたと答弁。山下議員は「あってはならないひどい対応だ」と批判。「アスベストの健康被害は、被害者自身が石綿を吸った記憶がなく、潜伏期間も長いことで自覚ができず、権利があるのに申請されないというケースが多くみられる」と指摘。「個別周知ということが重要だったにもかかわらず、そういう対応になっていた」とただし、周知の徹底を求めました。

政府がアスベストの使用を全面禁止にしたのは二〇〇六年でしたが、WHO(世界保健機関)が人体への有害性を発表したのは一九六四年で、ILOの専門家会議が発がん性を指摘したのは一九七二年です。ILOは八六年にはアスベストのなかで最も毒性の強い青石綿の使用又は吹き付け作業を禁止する条約を採択しましたが、日本の批准は二〇〇五年でした。

山下議員は「二十年近くも安全対策を放置したばかりか、通算一千万トンの大量輸入を続けた。そういう国の責任極めて大きい。周知徹底に限らず、定期的な健診など、国民を守るために国は責任持って必要な措置を講ずることができるよう制度の改正を更に検討すべき」と迫りました。環境省の神ノ田昌博環境保健部長は「石綿の暴露が推定される集団を対象に、既存検診に加えて、追加的な検査、CT検査等をおこない、疾患の早期発見の可能性を検証することで効果的かつ効率的な健康管理の在り方を検討している」と答弁しました。

山下議員は「環境省は、労災は損害賠償、救済給付は社会全体による負担であって制度の性格が異なるとしているが、石綿健康被害救済小委員会でも、総体的には責任は原因者が負っているはずで、原因者負担として負担すべきだと指摘されている。どちらも原因者に負担を求めて、救済給付も労災並みの水準にすべきではないか」と質問。神ノ田局長は「石綿健康被害救済制度は、原因者と被害者の個別的因果関係を明確にすることが困難で、民事上の賠償責任とは切り離して、社会全体で被害者の迅速な救済を図ることを目的としている。このため、救済給付の給付水準は民事上の責任に基づかないという点で類似する他の医薬品副作用被害救済制度、原子爆弾被爆者に対する援護制度等との均衡を考慮しながら設定されている。救済給付の在り方については救済小委員会において今後議論していく」と答弁。山下議員は「アスベストは自然に発生するわけでなく、輸入する、使用するという原因者がある。労災と救済給付を区別する必要はない」と指摘しました。

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○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
法案を作成された衆議院環境委員長始め発議者の皆さんに心より敬意を表したいと思います。
まず、厚生労働省に伺いますが、厚労省の二〇一一年、中皮腫死亡者の把握に係る調査実施要領では、救済対象となる中皮腫死亡者が依然として相当数存在するとされましたが、今どうなっているでしょうか。

○政府参考人(小林高明君) お答えいたします。
人口動態統計によりますと、平成二十七年から令和元年の中皮腫による死亡者数は、いずれも年間千五百人前後で推移をしております。依然として、労災保険制度や石綿救済法の対象となる方が多くいらっしゃるものと認識をしております。
厚生労働省としては、石綿による被災労働者や御遺族が確実に補償を受けられるよう、労災保険制度及び特別遺族給付金制度の周知を図ってまいります。

○山下芳生君 そこで、周知なんですけどね、一九九五年から二〇〇五年の死亡診断書については三千六百十三件個別周知されましたけれども、二〇〇六年から二〇一六年の死亡診断書については四百三十件しか個別周知されていないと聞きました。なぜこんなに落ちたんでしょうか。

○政府参考人(小林高明君) お答えいたします。
中皮腫が原因で死亡された方の御遺族に対する個別周知につきましては、特別遺族給付金の請求期限が令和四年三月二十七日となっていたことから、法務局等に保管されている死亡届の情報を調査、確認し、御遺族に対して個別に周知する取組を令和三年度に行ったものでございます。
当該中皮腫死亡者の把握に係る調査につきましては、当初、全国一括で委託業者の調達手続を実施したものの、落札されなかったことから、再度、全国を八ブロックに分けた上で調達手続を実施いたしましたが、関東甲信越ブロックのみが落札をされたことから、やむを得ず同ブロックのみ個別周知の取組を実施したところであります。
本法案の成立により、特別遺族給付金の請求期限が延長された場合には、更なる周知の取組についても検討をしてまいります。

○山下芳生君 延長されるからよかったようなものの、これ、入札が不調で、関東甲信越しか個別にお知らせがされていないという現状、私はこれはね、あってはならないひどい対応だと思いますよね。もう御存じのとおり、アスベストの健康被害というのは、被害者自身がなかなか、石綿を吸った記憶がない、そして潜伏期間も長いということで自覚がなかなかできないわけですよね。やはり、権利があるのに申請されないというケースが多いわけですから、インターネットで周知していますというだけでは埋もれちゃうと、だから個別周知ということが重要だったにもかかわらず、そういう対応になっていたと。もうそこは繰り返してほしくないということは指摘しておきたいと思います。
その上で、死亡診断書が五年で廃棄されるケースがあると聞きました。その結果、個別周知が行われていないようなんですが、しかし、二〇〇三年以降、人口動態調査に用いた死亡小票のデータが残っているというふうにも伺いました。
このデータに基づいて個別周知をやるべきではありませんか。

○政府参考人(小林高明君) お答えいたします。
御指摘の死亡小票でございますが、統計法に基づき基幹統計調査として実施される人口動態調査において作成されるものであるが、統計法では、統計の作成又は統計的研究を行う場合や調査に係る名簿を作成する場合に調査データを利活用できることが規定をされており、これら以外の目的での利活用は困難でございます。
一方、厚生労働省では、これまでも個別周知の取組、石綿暴露作業による労災認定等を受けた方が所属していた事業場名の公表、新聞やインターネットによる広告などを通じて制度の周知や請求勧奨に努めてきたところでありまして、こうした取組を今後とも的確に実施することで適正な労災認定等に努めてまいります。

○山下芳生君 情報管理をしっかりやることなどで、やっぱりなくなった死亡診断書をいかにしてカバーするかということは是非考えていただきたい。
それから、今、次にですね、今お話のあった肺がんについては、医学的資料、まあ医学資料、カルテなどがなくても、同僚などが石綿労災認定されていれば本省照会によって特別遺族給付金を支給できることがあります。これまで石綿暴露作業による労災認定事業場として公表を行った事業場の数は延べ一万六千三十四事業場なのに対し、この本省照会は二〇一四年度から二〇二〇年度までにそれぞれ四件、一件、一件、四件、四件、六件、三件にとどまっております。
なぜこんなに少ないんでしょうか。

○政府参考人(小林高明君) お答えいたします。
御指摘の事業場数は、労災保険法及び石綿救済法に基づき、石綿暴露作業による労災認定などを受けた労働者が属していた事業場の情報として公表したものであります。
一方、御指摘の本省照会の件数は、石綿救済法に基づく特別遺族給付金の請求のうち、肺がんにより死亡された事案で労働局から本省へ業務上外の照会がなされた件数でありまして、この数字と石綿暴露作業による労災認定等事業場の数との多寡を一概に比較することは適当ではないと考えております。

○山下芳生君 いやいや、そんなに言い切っていいのかなとちょっと私納得できないんですけどね。こういう制度がありながら利用されていないということは、やっぱり周知がされていないんではないかなというふうに思うわけですね。肺がんで亡くなったんだけども、石綿が由来、の由来なんだということを分からないまま、あるいは退職後そうやって亡くなる方もいると思うんですよ。やはり周知、大事だと思いますね。余り関係ないというふうに、木で鼻くくったような御答弁は私はいかがなものかと今聞いておって感じました。
やはり、労災認定事業場に対して、ちゃんと肺がんについては同僚がそういうことになれば支給されるんですよということを個別の事業場に通知する、そして問題は、対象となる御遺族にそのことが分かりやすく伝わって漏れがなくなるようにすると、そうやれば私はこの数字上がっていくと思うんですけど、そういうことやっています。やるべきじゃありませんか。

○政府参考人(小林高明君) お答えいたします。
厚生労働省では、石綿暴露作業による労災認定等を受けた方が所属していた事業場名等を毎年公表しているところであります。
当該事業場に対しては、肺がんが対象疾病となることを含め、石綿による疾病に関する各種給付のリーフレット等を個別に送付し周知を行っております。その際、当該事業場の事業主に対しては、既に離職されている方を含め、事業場で石綿暴露作業に従事していた労働者の方やその御遺族の方に事業場から制度の周知及び請求の勧奨を行っていただくよう文書で依頼を行っているところであります。
こうした取組を今後とも的確に実施することで適正な労災認定等に努めてまいります。

○山下芳生君 しっかりやっていただきたいと思います。この数字はおかしいなと私は思っております。
次に、やはり政府の責任は大きいと思うんですね。
政府がアスベストの使用を全面禁止にしたのは二〇〇六年であります。しかしながら、WHOが人体への有害性を発表したのは一九六四年です。ILOの専門家会議が発がん性を指摘したのは一九七二年です。また、ILOは八六年にはアスベストの中で最も毒性の強い青石綿の使用又は吹き付け作業を禁止する条約を採択いたしましたけれども、日本の批准は二〇〇五年ということで、二十年近くも安全対策を放置したばかりか、通算一千万トンの大量輸入を続けた。
そういう国の責任極めて大きいと思うんですけれども、やはり周知徹底に限らず、定期的な健診など、国民を守るために国は責任持って必要な措置を講ずることができるよう制度の改正を更に検討すべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(神ノ田昌博君) お答えいたします。
環境省では、労災補償等の対象とならない一般住民等について、石綿関連疾患が発見できるような体制を整備するため、令和二年度から肺がん検診等の既存検診を活用し、自治体の石綿関連疾患の読影精度向上に向けた知見の収集を行う事業を実施しております。
さらに、当該事業において、石綿の暴露が推定される集団を対象に、既存検診に加えて、追加的な検査、CT検査等を行い、疾患の早期発見の可能性を検証することで効果的かつ効率的な健康管理の在り方を検討をしているところでございます。
こうした事業の実施により、今後も石綿暴露者の健康管理の在り方について検討してまいりたいと存じます。(発言する者あり)

○山下芳生君 はい、どうぞ。

○政府参考人(武田康久君) お答え申し上げます。
厚生労働省におきましては、労働安全衛生法に基づき、労働者が石綿等を取り扱い、その粉じんが発散する場所での業務に従事する場合、雇入れ時や配置換えの際のほか、定期的な健康診断の実施を事業者に義務付けております。このほか、事業者に対して、過去に石綿等の粉じんが発散する場所での業務に従事した経歴がある労働者を雇用している場合にも同様の健康診断の実施を義務付けているところでございます。
委員御指摘のとおり、厚生労働省といたしましても、引き続き、石綿等の業務に従事歴のある労働者の適切な健康管理や異常の早期発見のために必要な取組を進めてまいりたいと考えております。

○山下芳生君 次に、中央環境審議会の小委員会なんですけれども、石綿健康被害救済小委員会ですけれども、当事者の代表がたった一人というふうに聞きました。過労死等防止対策推進協議会は、ILOの三者原則に当事者を加えて、専門家八人、当事者四人、労働者代表四人、使用者代表四人という委員構成になっておりますが、これと比べても不公平な構成になっていると感じるんですが、改めるべきではありませんか。

○政府参考人(神ノ田昌博君) お答えいたします。
六月六日に第一回目の会合が開催されました石綿健康被害救済小委員会は、法学者三名、石綿関連疾患の専門家三名、当事者団体一名、自治体代表一名、関係団体二名で構成されておりまして、今後、患者団体等からヒアリングを行うなど、様々な立場の御意見を伺い議論を行う予定でございます。
なお、石綿健康被害救済制度は、労災補償等の対象とならない石綿健康被害者を社会全体で救済する制度であることから、救済小委員会において労使問題について協議を行うということは想定してございません。

○山下芳生君 最後の質問になると思いますが、環境省は、労災は損害賠償、救済給付は社会全体による負担であって制度の性格が異なるとしております。
しかし、二〇一六年八月十日の石綿健康被害救済小委員会で大塚委員、現中央環境審議会環境保健部長は、総体的には責任は原因者が負っているはずなので、原因者負担として負担すべきだと指摘いたしました。
労災と救済給付の制度の性格が異なるというのは誤りではないか、どちらも原因者に負担を求めて、救済給付も労災並みの水準にすべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(神ノ田昌博君) お答えいたします。
石綿健康被害救済制度は、原因者と被害者の個別的因果関係を明確にすることが困難であるという石綿健康被害の特殊性を鑑みまして、民事上の賠償責任とは切り離して、社会全体で被害者の迅速な救済を図ることを目的としております。このため、救済給付の給付水準は民事上の責任に基づかないという点で類似する他の制度、具体的には医薬品副作用被害救済制度、原子爆弾被爆者に対する援護制度等との均衡を考慮しながら設定されております。
救済給付の在り方につきましてはこの救済小委員会において今後議論していくということになっておりますので、まずはこの議論を見守りたいと考えております。

○山下芳生君 この大塚委員は、総体的には原因者であると。だって、アスベストって別に自然に発生するわけじゃありませんから、輸入する、使用するという原因者があるわけですから、そういうことで考えると、余りこの労災と救済給付を区別する必要はないんじゃないかという、これは非常に大きな問題提起がされていると思いますので、引き続き検討いただきたいと思います。
以上で終わりますが、発議者の皆さん、ありがとうございました。終わります。