日本共産党 参議院議員 党副委員長
山下よしき

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参議院憲法審査会 「本会議のオンライン出席」に関する意見表明

参議院憲法審査会 2022.4.27

日本共産党の山下芳生です。会派を代表し、憲法56条1項の「出席」に関する議論について、総括的な意見を表明します。

 意見表明の前提として、憲法審査会の運営のあり方について一言します。そもそも憲法審査会は、改憲原案を発議し、審査する機関であり、ここでの議論を進めることは、勢い改憲案のすり合わせに向かいます。必要性もないのに、改憲ありきで憲法審査会を軽々に動かすことは絶対にあってはなりません。

 その立場から、わが党は、「本会議のオンライン出席の可否」について憲法審査会で議論する必要性はないと指摘してきましたが、衆議院参議院の各審査会におけるオンライン出席の議論をつうじて、この問題が、「緊急事態」をあげつらって改憲に結びつけようとする動きに他ならないことが明白となりました。

 衆議院憲法審査会において、多数決によって、憲法56条1項について「例外的に、いわゆる『オンラインによる出席』も含まれると解釈することができる」というのが「大勢」だと一方的に結論づけました。憲法の個々の条文の解釈を、多数で確定させるなどという乱暴きわまるやり方であり断じて認められません。これは憲法審査会の越権行為と言わなければなりません。

 にもかかわらず、こうした衆議院の乱暴なやり方を受けて、参議院でもオンライン出席を議題とすること自体が問題です。

 自民党などが主張する、緊急事態的状況下におけるオンライン出席については、わが党の山添拓委員が述べたように、新型コロナの感染拡大が繰り返すもとでも、定足数である3分の1の国会議員が参集できない事態は生じていません。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災のときも、同様に、そのような事態は生じませんでした。  

衆議院で高橋和之参考人は、本会議へのオンラインでの出席、表決を必要とする具体的事実はないと明確に述べました。当審査会での赤坂幸一、長谷部恭男両参考人の意見も、オンライン出席を必要とする場面は極めて限られるという前提に立った慎重なものでした。

 現在、国会のコロナ対策は、議院運営委員会において、マスク着用の徹底や委員会室の座席配置の変更など随時行われており、引き続き議運で対応すれば事足ります。また、オンラインを審議にどう活用するかは、参議院改革協議会においても検討項目に挙がっており、憲法審査会で議論する必要性はありません。

 日本国憲法第4章は、国会議員は全国民の代表であるとし、その地位の独立と国会における自由な発言と表決を保障し、本会議について、会議公開の原則のもと、議員同士が相互に認識できる議場に出席し、議論を尽くして表決することを要請しています。これらは、国民主権と議会制民主主義の大原則です。

 衆議院で高橋参考人は、憲法56条1項はルールを定めた規定であり、厳格に解釈すべきだと述べ、それが立憲主義の約束事であるとの認識を示しました。また、この規定は会議体を成立させる最低限の要件として、少数者を保護し、あるいは権力の濫用を防止するために置かれたものだと指摘しました。国会も国家権力の一つであり、多数派による立法権の濫用、暴走を防ぐうえで、条文解釈は厳格になされるべきです。我々国会議員が、条文解釈を厳格に行うことこそ、立憲主義を守る道であります。

 結局、今回の「緊急事態」をあげつらってのオンライン出席の問題は、危機に乗じて、改憲に結びつけようとする議論に他なりません。衆議院の高橋参考人は、「極端な事例を出せば出すほど、誰か一人に権限を全面的に集中するしかない」「かえって危険の方が大きくなる」と指摘し、緊急事態を理由にした改憲を戒めました。この指摘を真摯に受けとめるべきです。

 新型コロナ対応と憲法にかかわっては、2020年7月と2021年7月に野党が求めた臨時国会召集要求を、安倍内閣、菅内閣が拒み続けたことに触れざるを得ません。憲法53条は、「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」としています。2020年6月10日の那覇地方裁判所の判決は、憲法53条後段の内閣の臨時会の召集は、憲法上明文をもって規定された法的責務であり、内閣に認められる裁量の余地は極めて乏しいと述べています。その控訴審である2022年3月17日の福岡高裁那覇支部の判決でも「内閣は、召集のために必要な合理的期間内に、国会の臨時会の召集をすべき憲法上の義務」を負うと述べています。安倍内閣、菅内閣の召集義務違反は憲法違反の権力濫用です。

コロナ禍という緊急事態の対応において臨時国会召集拒否という権力濫用の事例があるなかで、権力の濫用を防止するために置かれた56条1項の「出席」要件を緩めることは極めて危険です。そもそも、コロナ禍での臨時国会の召集義務違反に一片の反省もない政府・与党に、緊急時の本会議のオンライン出席を論じる資格はあるのでしょうか。

なお、出産、疾病等により物理的な出席が困難である場合のオンライン出席を認めるべきだとの議論がありますが、この問題では衆議院の高橋参考人が、権力の濫用につながる憲法56条1項の出席の原則を緩めることなく、国会での議員活動を確保するため、様々な便宜を実質的に実現する制度設計は幾らでも可能であると述べ、当審査会でわが党の吉良よし子委員は、自身の妊娠・出産の経験をふまえ、産前産後など国会への出席が困難なときに必要なのは、提出された法案などに対する自らの立場や意見を議事録等に残してもらうことだと述べました。これは国会法や議院規則を変えることで実現可能です。

最後に、前回の審議で自民党の複数の委員が、「本会議のオンライン出席の可否」の議論を超えて、憲法を改定し、緊急事態条項を加えることや自衛隊を明記することの議論に踏み込みました。憲法審査会を動かせば、次々と自民党の改憲項目のすり合わせに向かうことが明らかとなりました。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵略という危機に乗じて改憲論議を加速しようとしているとしか思えません。

しかもその内容は、岸田政権が検討する、相手国の領空に入っての爆撃も排除しない敵基地攻撃能力の保有、自民党安全保障調査会が提言した、基地に限らず相手国の中枢機能を攻撃する能力の保有にとって邪魔になる憲法9条を改定するものです。このような改憲は、国民多数の願いとも、国連憲章にもとづく平和の国際秩序とも相容れません。

憲法審査会をこれ以上動かすべきではないことを申し上げ、意見表明とします。