○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
会派を代表し、岸田総理に質問します。
冒頭、ロシア・プーチン政権によるウクライナ侵略に強い憤りを込めて抗議し、ロシアの軍事行動の即時中止を求めます。
ウクライナに対する人道支援が急務です。我が党はウクライナ支援募金に取り組み、これまでに九千二百四十五万円が寄せられ、UNHCRとユニセフに順次お渡ししています。その際、四百万人を超える国外避難民のほとんどが女性と子供であり、家族ばらばらにされることへの深い心の痛みを抱えていること、心のケアも含めて国際社会の支援が必要となっていることも伺いました。こうした点や避難民の受入れも含め、政府として非軍事の人道支援を強化すべきではありませんか。
国際社会がどうやって侵略を止めるのか。何より重要なのは国際世論です。世界中の国々と市民社会が、ロシアは侵略をやめよ、国連憲章を守れ、国際人道法を守れの一点で声を上げ、力を合わせることこそ侵略を止める最大の力です。プーチン政権が、政権に批判的な非政府組織などを一方的に外国の代理人と決め付け、報道機関にその明示を強要するなど、異常な言論、報道の統制、弾圧を行っているのは、国内外の世論の批判を何より恐れているからにほかなりません。
この点で、国連総会で三月二日、ロシアの侵略を国連憲章違反と断罪し、即時無条件撤退を求める非難決議が加盟国百九十三か国の七割を超える百四十一か国の賛成で採択されたこと、続いて三月二十四日、ジュネーブ条約など国際人道法の尊重を強く求める決議が百四十か国の賛成で採択されたことは、ロシアによる侵略と戦争犯罪を非難し、その中止を求める国際社会の揺るがぬ意思を示したものとして大きな意義があります。
また、二十四日の決議採択の過程で、ロシアによる侵略という事態の性格を曖昧にし、ロシアを名指しせず、全ての当事者による敵対行為の即時停止だけを求める決議案も浮上しましたが、多数の反対で、採決にかけられないまま廃案となりました。ロシアによる侵略という事態の本質に目をつぶる議論が国連総会の場で通用しなかったことは、国際社会でのロシアの孤立ぶりを明確に示すものとして重要であります。
総理、こうした国際世論による包囲こそ、ロシアの侵略を止める最大の力であると考えますが、総理の認識はいかがですか。
総理は、G7首脳は国際秩序の根幹をめぐる歴史の岐路に立っていると述べましたが、総理の言う国際秩序の根幹とは何ですか。私は、二度の世界大戦を経て、主権の尊重、領土の保全、武力行使の禁止などを加盟国に義務付けた国連憲章こそ国際秩序の根幹であり、国連憲章に基づく平和の国際秩序を守る一点で国際社会が大きく団結してこそ歴史の岐路を前向きに打開できると考えますが、総理の見解を伺います。
我が党は、国際世論による包囲をより強固にするために、国会議員団が手分けして、駐日ロシア大使、駐日ベラルーシ大使と面会し、侵略とそれへの加担を即時中止するよう、直接申し入れました。また、ロシア非難決議に棄権、退席した駐日ベトナム大使などに、ロシアを非難する立場に立つよう、要請を開始しました。政府として、ロシアを包囲するための外交活動を強化すべきではありませんか。答弁を求めます。
ロシアによる生物化学兵器の使用、核兵器使用の危険が現実的に生まれています。二月二十四日、プーチン大統領はウクライナ侵略に当たっての演説で、ロシアが核兵器大国であることを誇示し、ロシアに対する通常兵器による攻撃に対しても核兵器を使用することを示唆しました。さらに、三月二十二日、ペスコフ・ロシア大統領府報道官は、ロシアが存亡の危機に陥った場合には、核兵器使用もあり得ると発言しました。
これらの発言は、決して偶然のものではありません。プーチン政権は、二〇二〇年六月二日に公表した文書、核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎において、国家の存立が脅かされるような通常兵器によるロシア連邦への侵略などに対しても核使用はあり得るとして、核の先制使用を行うことを国家の基本姿勢として公言しています。
総理、核兵器の非人道性を知る唯一の戦争被爆国である日本から、ロシアは核兵器の使用もその威嚇もやめよの声を上げることが極めて重要だと考えますが、いかがですか。
これまで核兵器保有国が核を持つ最大の理由にしてきたのは、核を持てば核抑止が働いて戦争を止められるという理屈でした。しかし、プーチン大統領のような先制核使用を公言する、自分の国の国民が報復によってどんなに犠牲になろうと核兵器を使うことをためらわない指導者が出てくる下で、核抑止はいよいよ無力だということが明らかになっています。総理、その認識はありますか。
こうした状況を打開し、核兵器使用の危険から人類を救う道はただ一つ、全世界から核兵器を廃絶することしかありません。しかも、それは急務です。被爆国である日本が核兵器禁止条約に参加することは、核廃絶への道を加速する大きな力となります。総理、真剣に検討すべきではありませんか。
総理は、ロシアによる平和条約交渉中断宣言にひるむことなく、今後とも断固とした対応を取っていくと述べました。しかし、今、世界で、ロシアとの経済関係を重視し、覇権主義への態度を曖昧にする親ロ路線がプーチン氏に誤ったメッセージを送ったなどとして、これまでの対ロシア外交、対プーチン政権外交への反省が起こっています。
翻って、日本はどうでしょうか。ロシアによる一方的なクリミア併合にEUが経済制裁を行っている同じ時期に、プーチン大統領に対し、ウラジミール、君と僕は同じ未来を見ていると言い、二十七回も一緒に食事したとアピールし、日ロ領土問題で、四島返還という従来の政府の立場からも後退して、事実上の二島返還へ一方的に譲歩したのは一体誰か。安倍政権ではありませんか。その中で合意された、北方四島でロシアの主権の下に進む共同経済活動の予算二十一億円を、ウクライナ侵略が起こった後も削除せず強行したのは誰か。岸田政権ではありませんか。
こうした対ロ外交の破綻は今や明瞭です。総理、歴代政権がロシアにこびへつらう外交をやってきたことへの真剣な反省が必要ではありませんか。この反省なしに、今後とも断固とした対応を取っていくと言っても全く説得力がないと考えますが、いかがですか。
ましてや、これまでの対ロ外交の反省なしに、危機に乗じて、核共有や敵基地攻撃、九条改憲を唱えるなど、断じて許されません。
日本共産党は、旧ソ連の時代から、ロシアの覇権主義と正面から闘い抜いてきた政党です。旧ソ連によるチェコスロバキア侵略、アフガニスタン侵略に断固反対し、北方四島はもちろん、全千島が日本の歴史的領土だと主張するなど、自主独立の立場を貫いてきました。そのためにソ連から乱暴極まる干渉攻撃を受けましたが、党の生死を懸けて闘い頑としてはねのけ、ソ連が崩壊したときには、世界の巨悪の崩壊をもろ手を挙げて歓迎するとの声明を出したのは日本共産党であります。
この党の歴史に懸けて、どんな国であれ覇権主義を許さず、世界平和のために奮闘する決意を述べて、質問を終わります。(拍手)
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 山下芳生議員にお答えをいたします。
ウクライナの人々の心のケアを含めた人道支援の強化についてお尋ねがありました。
ウクライナの人々の心のケアについてですが、三月十一日に決定済みの一億ドルの支援の中で、国際機関を通じた支援として、紛争の影響を受けた人たちへの心のケアとして最初に行うべき心理社会的支援などを実施することとしております。また、先般、追加的に一億ドルの人道支援を行うことをG7の場で表明いたしましたが、この追加的緊急支援、緊急人道支援においても、議員御指摘の心のケアといった点にも対応すべく、国際機関や日本のNGOと内容の調整を行っているところです。
我が国は、今後も、G7を始めとする国際社会と連携しながら、現地のニーズを的確に把握しつつ、困難に直面するウクライナの人々に寄り添った支援を実施してまいります。
国際世論によるロシアの包囲等についてお尋ねがありました。
国家の主権や領土一体性の尊重及び武力の行使の禁止といった原則は、国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げた国際秩序の根幹です。
今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、欧州のみならず、アジアを含む国際社会の秩序を根底から揺るがす暴挙であり、国連憲章第二条四が禁ずる違法な武力の行使です。断じて容認、許容できず、厳しく非難をいたします。一刻も早くロシアが国際社会の声に耳を傾け、侵略をやめるよう、国際社会が結束してロシアに対して強い制裁を科していくことが重要です。
我が国として、ウクライナに対する侵略決議を棄権、退席した国を含め、引き続き各国に対して様々な機会を捉えて粘り強い外交努力を続け、また国際世論を喚起してまいります。
ロシアによる核兵器の使用に関する威嚇への対処等についてお尋ねがありました。
今般のロシアによるウクライナ侵略の中で、核兵器が使用される可能性を深刻に懸念しています。唯一の戦争被爆国として、核兵器による威嚇も、ましてや使用もあってはならないということを引き続き強く訴えていきます。
現下のウクライナ情勢により、核抑止は無力だと明らかになったとの御主張は当たりません。むしろ、現下の情勢は、核兵器のない世界への道のりの厳しさを示していると考えます。核兵器のない世界を目指すとの私の決意は変わりません。
核兵器禁止条約は、核兵器のない世界への出口とも言える重要な条約です。しかし、現実を変えるためには核兵器国の協力が必要ですが、同条約には核兵器国は一か国も参加しておりません。御指摘のような対応よりも、我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器国を関与させるよう努力していかなければなりません。
そのためにも、核兵器のない世界に向けて、唯一の同盟国である米国と信頼関係を基礎としつつ、現実的な取組を進めてまいります。
対ロ外交についてお尋ねがありました。
北方領土は我が国が主権を有する島々であり、我が国固有の領土です。我が国としてこの立場に変わりはなく、平和条約交渉の対象は四島の帰属の問題であるというのが我が国の一貫した立場であります。
また、二〇一四年のロシアによるクリミア併合に対しては、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害するものであるから、我が国としても国際社会とともに対ロ措置を科しました。そして、我が国を含む国際社会は、こうした措置を科す一方で、ロシア、ウクライナ両国に対して様々な働きかけを行い、協力を行うことで緊張緩和に努めたというのが国際社会全体の取組でありました。
その中で、ロシアとは、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、粘り強く平和条約交渉を進めてきたものであり、ロシアにこびへつらう外交をやってきたという御指摘は当たりません。ロシアによる今回の侵略後の現在の基準でもって、当時の我が国の対応について評価することは適切ではないと考えております。(拍手)