第2次補正予算案に対する代表質問
6月8日に行われた日本共産党副委員長・山下芳生参議院議員の参議院本会議質問(安倍首相答弁)は、以下の通りです。
日本共産党を代表して、第2次補正予算案について安倍総理に質問します。
まず、予備費の問題です。
10兆円もの巨額の予備費は、憲法に定める財政民主主義をじゅうりんするものです。巨額の血税の使い道を政府に白紙委任することなどできません。
国民の批判が高まる中、政府は予備費10兆円のうち5兆円について、雇用維持や生活支援に1兆円、事業継続に2兆円、医療提供体制に2兆円と、大まかな使途に言及しました。ならば、総理、政府・与党の責任で明確に予算化し、国会で修正すればよいではありませんか。答弁を求めます。
緊急事態宣言は解除されましたが、北九州市や東京都での新規感染者の拡大に見られるように、ウイルスによる市中感染は続いており、「第2波」へのしっかりした備えが必要です。
まず、検査についてうかがいます。
広島、岩手、愛知など18道県の知事が、感染拡大を防止しながら経済社会活動を正常化する「緊急提言」を発表しました。そこでは、これまでの受動的な検査から積極的感染拡大防止戦略への転換が提起されています。そのために、PCR検査の能力を現在の2万軒から10万ないし20万件に引き上げるべきとしています。極めて積極的で合理的な提案です。
総理、「第2波」に備え、発熱など強い症状がある人だけを対象としてきたこれまでのやり方と発想を転換し、1つ、感染が疑われる人、ごく軽症を含む有症者とすべての濃厚接触者を速やかに検査する、2つ、医療・介護・福祉従事者と入院患者、入所者への検査を積極的に行う、3つ、感染の広がりを把握する抗体検査を広く行う、この3つの柱で検査を進めることが重要だと考えますが、いかがですか。
日本医師会の有識者会議は、PCR検査が進まなかった「最大の理由」は国から「財源が全く投下されていないことだ」と指摘し、PCR検査センターの設置、維持に必要な予算を4694億円と試算しています。ところが、本補正予算案ではPCR検査体制の整備は366億円にすぎず、ひと桁足りません。総理、数千億円規模の予算を確保すべきではありませんか。
「第2波」に備え、今の時期に医療体制を確立することも喫緊の課題となっています。
日本病院会など3団体の調査によれば、コロナ患者を受け入れた病院は4月は平均1億円の赤字であり、受入れに協力した病院ほど経営が大変になると苦悩する声が上がっています。一方、直接コロナ患者に対応していない病院、診療所でも、大規模な受診抑制によって経営危機が深刻化しています。
総理、この両者は役割を分担し日本の医療を支えています。コロナ対応の医療機関への1・2兆円の財政支援が速やかに現場に届くようにするとともに、財政支援の全くない通常の医療を担う診療所、病院への減収補償が必要ではありませんか。答弁を求めます。
コロナ危機の長期化に伴い、雇用の危機が深刻化しています。既に非正規雇用は100万人近く減少しています。ホテル、旅館業、飲食業などを中心に、コロナ関連の倒産も200件を超え、急増しています。さらに、自動車、電機など大企業製造業の減産計画が相次いで発表されています。まさに、リーマン・ショック時を上回る雇用危機が始まろうとしているのです。
総理、雇用危機を回避し、人々の暮らしを守ることは政治の最大の使命だと考えますが、総理にその認識はありますか。
雇用と暮らしの危機を回避するために、2点提起します。
第1に、失業、倒産、廃業を起こさないことです。本補正予算案には、雇用調整助成金の上限額引上げを始め、国民の声、野党の要求を反映した一連の施策が盛り込まれています。しかし、支援が現場に届くのが遅れに遅れ、その間に失業、倒産が増え続けています。総理はこの事態をどう反省し、どう解決するつもりですか。
失業者を出さないための雇用調整助成金は、現在、相談件数50万軒にたいし支給は5万件。600万人に上る休業者のうち、助成金が支給されたのは数10万人にとどまると推定されます。これ以上遅れるなら、600万人の休業者の多くが失業者になる危険があります。緊急に、雇用調整助成金を事前審査から事後チェックに切り替え、支給を迅速化すべきです。
さらに、中小企業や個人事業主の事業継続を支援することも大事です。持続化給付金の申請を簡易にし、窓口での相談体制を強化すること、家賃補助は、5月以降ではなく、3月以降1か月でも売上げが3割減少した事業者へと対象を拡大することが必要です。
以上、総理の答弁を求めます。
第2に、住まいを確保することです。今、雇用の喪失が住まいの喪失に直結する事態が広がりつつあります。つい最近まで普通に暮らしていた人が、コロナ禍の下で収入が激減し、住宅ローンや家賃を支払うことができず、住居を失うことになってしまうケースが増えています。住居を失うことは、即、命の危機にもなります。
総理、この「住居喪失クライシス」ともいうべき事態を一刻も放置できないのではありませんか。
こういうときに重要な役割を果たすのが、最後のセーフティーネットである生活保護制度です。リーマン・ショック時には、派遣切りされた、そして住居も失った若い労働者が生活保護を活用して衣食住を確保し、その間に自らのスキルを磨き、劣悪な雇用から抜け出したケースがありました。
総理、生活保護の申請があれば、すぐに決定すべきです。窓口で追い返す水際作戦など言語道断です。さらに、安い物件が不足し生活保護でも住まいを確保できない事態を解決するために、住宅扶助を引き上げること、災害時同様、民間住宅を借り上げることも急務だと考えますが、いかがですか。
次に、学校再開に関わって質問します。
長期の休校による子どもの学習の遅れと格差の拡大、不安とストレスは大変深刻です。子どもたちの心身のケアをしっかり行うことは、学びを進める上での前提になります。東日本大震災で深刻な被害に遭った地域の学校は、子どもと教職員がつらい体験や思いを語り合うことで学校生活がスタートできたといいます。
子どもたちの心身のケア、手厚く柔軟な教育、そして感染症対策のためにも学校の教職員やスタッフを思い切って増やし、20人程度で授業ができるようにすることが必要です。
日本教育学会は、文科省のいう学びの保障を実現するためには10万人の教員増が必要だと提案しています。ところが、本補正予算案で盛り込まれた教員増は3100人、全国の小中学校の10校に1人で、焼け石に水と言わねばなりません。
総理、今こそ10万人の教員を増やし、子どもたちの学び、心身のケア、安全を政治の責任で保障すべきではありませんか。答弁を求めます。
この間、演劇、音楽、映画の公演のほとんどすべてが中止、延期となりました。文化芸術団体にとってその打撃と負担はあまりにも大きく、このままでは創造活動を続けることが極めて困難となっています。
文化芸術基本法には、文化芸術の役割が今後においても変わることなく、心豊かな活力ある社会の形成にとって極めて重要な意義を持ち続けるとあります。さらに、文化振興のために国が支援することもうたわれています。
政府は500億円規模の支援を決めましたが、自粛要請による損失は3300億円に上ります。ミニシアター、ライブハウスなどにも対象を広げ、額を大幅に増やすべきです。
総理、文化芸術の灯を絶やさないために、国が数千億円規模の拠出を行って文化芸術復興基金を創設すべきではありませんか。
総理の見解を求めて、質問を終わります。
【安倍首相の答弁】
山下芳生議員にお答えをいたします。
予備費についてお尋ねがありました。
新型コロナウイルス感染症については、今後の長期戦を見据え、状況の変化に応じ、臨機応変に、かつ時機を逸することなく対応する必要があります。
こうした観点から、今後の対応に万全を期すため、新型コロナウイルス感染症対策予備費を10兆円追加することとしました。
この予備費の使途についての考え方を財務大臣より財政演説においてご説明したところですが、予備費はそもそも予見し難い予算の不足に充てるために措置しており、使途をお示しした5兆円についても、ある程度の幅を持って見る必要があることから、そのそれぞれについて具体的な予算額を計上することは困難です。その上で、この予備費の使用については適時適切に国会にご報告することとしており、具体的な報告のあり方については今後よく相談してまいります。
PCR検査体制の整備と医療機関への財政支援についてお尋ねがありました。
PCR検査については、医師が必要と判断した方や、症状の有無にかかわらず濃厚接触者の方が確実に検査を受けられることが重要であると考えております。医療等従事者や入院患者等に対しても、感染が疑われる場合は検査を行うこととしています。
また、抗体検査については、全体の免疫の獲得状況を確認し、今後の感染拡大防止に活用するため、大規模な疫学調査を実施しているところです。
PCR検査体制の整備については、PCR検査を保険適用するとともに、抗原検査との最適な組合せによる迅速かつ効率的な検査体制の構築や民間検査機関のさらなる活用等により検査能力の増強を行い、さらに、これを最大限生かすため、PCR検査センターの設置や唾液を用いたPCR検査等を推進することで、検体採取のための体制の拡充を図ることとしております。
こうした取り組みを推進するため、今般の第2次補正予算においては、ご指摘のPCR検査センターの設置やPCR、抗原検査の実施の経費のみならず、検査試薬や検査キットの確保のための経費のほか、検査設備の整備を支援する交付金を大幅に拡充し、全額国費負担とするなど、自治体とも密接に連携しながら検査体制の整備をしっかりと進めていくこととしております。
また、医療機関については、感染症対策の徹底をうながしつつ、地域医療体制を継続できるよう、コロナ対応を行う医療機関や地域の医療を支える医療機関が行う様ざまな取り組みに対し強力な支援を行うこととしています。
具体的には、コロナ対応を行う医療機関に対しては、診療報酬のさらなる引き上げとともに、専用病棟を設定する医療機関での病床確保や設備整備に対する支援を4月にさかのぼって拡充することにより、さらなる支援を行っていくこととしています。また、それ以外の医療機関に対しても、感染疑い患者の受入れのための対策や、医療機関や薬局等における感染拡大防止のための支援を行うとともに、当面の資金繰り支援として、無利子、無担保等を内容とする危機対応融資の拡充や、医療報酬の一部概算前払を行うこととしています。
雇用の維持や事業の継続についてお尋ねがありました。
新型コロナウイルス感染症の影響により経済も大きな影響を受けており、事業者の皆様の経営にも大きな打撃となっています。こうした中にあって、政治に課された最大の使命は、何とか事業を継続していただき、またしっかりと雇用を守っていくことであると考えております。
雇用調整助成金については、6月5日現在で約6万件について支給を決定しております。一刻も早く雇用調整助成金を届けるために、手続の簡素化、支給の迅速化に努めており、申請から支給までの期間を2週間とすることをめざしてまいります。
なお、雇用調整助成金の支給に当たっては、通常は実際に休業手当が支払われているか否かの確認を求めていますが、今回は、賃金締切日以降、休業手当にかかる書類など必要書類が確定していれば、支払前であっても支給申請をすることができることとしております。
持久化給付金については、給付額の確認書類を2種類に絞る、オンライン申請とするといった対応により、スタートから1か月で100万件以上の中小企業、個人事業主の皆さんに、合わせて1兆4千億円を超える現金をお届けしています。多くの事業者の皆さんが明日の支払にも苦しんでおられる中で、一日も早く現金をお手元にお届けすることが大切であり、引き続き、何よりもスピード感が重要であると考えています。
今般創設する家賃支援給付金は、5月に緊急事態宣言が延長されたことなどを踏まえ、売上げの更なる急減に直面する事業者の皆さんに対してより一層の下支えを行うため、最大600万円を給付するものです。極めて厳しい経営状況にある事業者の皆さんに対して一刻も早く給付金を届けるため、第2次補正予算が成立次第、迅速に手続きを進めてまいります。
住まいの確保については、感染拡大の影響による収入減少等に見舞われている方々の住まいへの不安を速やかに解消していかなければならないと考えており、このため、これまでに、住宅ローンの返済猶予などの条件変更に迅速かつ柔軟に対応するよう金融機関に要請を行うこと、住まいに不安を抱く方々に公営住宅を提供するよう地方公共団体に要請を行うこと、離職や廃業、休業等により住居を失うおそれがある方等に対して、住居確保給付金により、安定した住まいの確保を行うことといった様々な支援を講じているところです。生活保護制度については、現下の状況を踏まえた運用の弾力化等により、速やかな保護決定をうながしています。
また、受給者の住居を確保するため、家賃の代理納付の推進、低額所得者等の入居を拒まないセーフティーネット住宅の情報提供についての地方公共団体への要請のほか、アパート等への入居、定着の支援を進めてまいります。第2次補正予算においても住まいの確保に関して必要な予算を計上しているところであり、引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響により、住まいに不安を抱く方々の居住の安定に向け、万全を期してまいります。
教員の増員についてお尋ねがありました。
学校が再開しつつある現状において、まず取り組むべきことは、感染症対策と子どもたちの健やかな学びを両立し、あらゆる手段を尽くして、子どもたちを誰一人取り残すことなく、その学びを保障していくことです。
このため、政府としては、今般の第2次補正予算において、教員に加え、学習指導員やスクールサポートスタッフを計8万5000人、追加で配置するとともに、さらに、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを必要に応じて増員することとしています。
引き続き、各学校における感染症対策や学習支援、心のケアなど、子どもたちへのきめ細かな支援をしっかり行えるよう、全力で取り組んでまいります。
文化芸術への支援についてお尋ねがありました。
国難とも呼ぶべき現状において、人々の心を癒やし、勇気づける文化や芸術の力が必要であり、困難にあってもその灯は絶対に絶やしてはならないと考えます。
このため、政府としては、持続化給付金、雇用調整助成金や、文化イベント中止の際のチケット代の税制特例、税や社会保険料の猶予など、あらゆる手段で文化事業の継続と雇用の維持を図ってきたところです。
さらに、今般の第2次補正予算では、文化芸術活動の再開に向けて、実演家や技術スタッフの方々や文化芸術団体に対し、その活動継続や技能向上に向けた積極的な取り組みや、収益力を強化するための取り組み等への支援を行うこととしています。
政府としては、こうした事業を通じて、必要な支援が速やかに行き渡るよう努め、文化や芸術を再び盛り上げてまいります。
6月7日、日本共産党副委員長山下芳生議員の第2次補正予算案に対する参議院本会議での代表質問。議事録と動画。