2008年07月21日
ブームにつられて「蟹工船」を読んでみました。約80年前の作品ですが、今の世の中と妙に社会構造が一致しているように感じました。歴史は繰り返すといいますか、いわゆる反動勢力に揺り戻されながら、螺旋階段のように、それでも歴史は進歩するものと信じたいです。当時を襲った世界的経済恐慌、そして現在の経済状況も、実のところさして異ならないかも知れません。特に若い世代に限って考えると、間違いなく同等の経済恐慌に思えます。当時との経済的な共通点は何か。一つは外需頼みの経済構造ではないでしょうか。それと格差の拡大。格差の拡大は国内の購買力の低下を招くので、ますます経済は外需に依存します。また現在の派遣社員は、当時の蟹工船の労働者とまるっきり重なって見えます。まともな生活ができない賃金で働くので、借金をして、それをかたに奴隷のような労働を強いられます。一方では空前の利益を上げている大企業、資本家が存在してます。その利益は一体誰が生み出したのでしょうか。決して大企業、資本家だけによるものではありません。ですから、その利益を社会に還元することは当然のことと思います。格差の拡大は、めぐりめぐって結局は企業、資本家自体の首も絞めることになることに気づくべきでしょう。今のやり方はいつまでも続けられません。歴史が示しているように外需頼みの経済も同様に行き詰まるからです。企業に応分の負担を求める意見に対して戻ってくる答えは、「国際競争力を落としてもいいんですか!」80年経っても、なんと蟹工船の監督と同じことを言うので驚きます。「蟹工船」を読んだ人には、きっとそんな言い訳は通用しないです。今日本経済にとって必要なことは国際競争力じゃなくて内需拡大でしょう。最後に監督のウソっぽい訓示を引用します。「云うまでもなくこの蟹工船の事業は、ただ単にだ、一会社の儲仕事(もうけしごと)と見るべきではなくて、国際上の一大問題なのだ。 我カムサツカの漁業は蟹罐詰ばかりでなく、鮭(さけ)、鱒(ます)と共に、国際的に云ってだ、他の国とは比らべもならない優秀な地位を保っており、又日本国内の行き詰った人口問題、食糧問題に対して、重大な使命を持っているのだ。 日本帝国の大きな使命のために、俺達は命を的に、北海の荒波をつッ切って行くのだということを知ってて貰わにゃならない。だからこそ、あっちへ行っても始終我帝国の軍艦が我々を守っていてくれることになっているのだ。……それを今流行(はや)りの露助の真似(まね)をして、飛んでもないことをケシかけるものがあるとしたら、それこそ、取りも直さず日本帝国を売るものだ。こんな事は無い筈だが、よッく覚えておいて貰うことにする……」(青空文庫「蟹工船」より抜粋)