63回目の終戦記念日を前に、『きけわだつみのこえ 日本戦没学生の手記』を再読しました。
父母への思い、妻子への思い、故郷の山河への思い、
学問に対するあくなき欲求、社会に役立ちたいとの願い、
そして、生への執着とそれを許さぬ歴史の流れの只中に放り込まれた苦悩…
「『生きたい』とこれほどまでに考えつつ死に直面した時の苦痛は、思いみるだに顔をそむけたくなるほどぞっとす るものであろう。
『生きて帰る』俺にはまだまだ山ほど人生がある」
(上村元太 昭和17年中央大学専門部卒業。18年1月10日入営。20年4月沖縄にて戦死。24歳)
さらに、一切の人間性を否定する軍隊生活への嫌悪、
自由主義への憧れと、武力を捨てた新しい日本建設への展望が書き遺されていました。
「私は明確にいえば自由主義に憧れていました。日本が真に永久に続くためには自由主義が必要であると思ったからです。これは馬鹿な事に見えるかも知れません。それは現在日本が全体主義的な気分に包まれているからです。しかし、真に大きな眼を開き、人間の本性を考えた時、自由主義こそ合理的になる主義だと思います」
(上原良司 慶應大学経済学部学生。昭和18年12月入営。20年5月11日陸軍特別攻撃隊員として沖縄嘉手納湾の米国機動部隊に突入戦死。22歳)
「かつてのごとき、我に都合の悪しきもの、意に添わぬものは凡て悪なりとして、ただ武力をもって排斥せんとした態度の行き着くべき結果は明白になった。今こそ凡ての武力腕力を捨てて、あらゆるものを正しく認識し、吟味し、価値判断することが必要なのである。これが真の発展を我が国に来す所以の道である」
(木村久夫 京大経済学部学生。昭和17年10月入営。21年5月23日シンガポール、チャンギー刑務所において戦犯刑死。陸軍上等兵。28歳)
自らの意に反して死を覚悟しなければならない極限状態にあってなお、理性を失わず、真理を探求し、理想を掲げ続けた若い学徒たちのあったことを、この書は現代に伝えています。
前途ある若き知性を問答無用で摘み取る戦争というものを二度と繰り返してはならない、彼らの苦悩の上に打ち立てられた平和を、それを保障する日本国憲法を、どんなことがあっても守らなければならない――あらためて心に刻んだのでした。