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(緊急)子どもの脳死臨調設置法案に対する円より子議員(民主)の賛成討論(7月10日参院本会議)

2009年07月11日

2009年7月10日参議院本会議

○議長(江田五月君) 円より子君。
   〔円より子君登壇、拍手〕

○円より子君 私は、子どもに係る脳死及び臓器の移植に関する検討等その他適正な移植医療の確保のための検討及び検証等に関する法律案、いわゆるE案、子どもの脳死臨調設置法案に対し、賛成の立場から討論いたします。

 以下、賛成の理由を申し上げます。
 同法案に賛成する第一の理由は、本人の臓器提供に向けた自己決定がある場合のみ脳死を人の死とする現行法の重大な枠組みを維持し、脳死は一律に人の死とする考え方には立たない点であります。

 衆議院で可決されたいわゆるA案に対しては、国民の間に、脳死が一律に人の死として扱われ、家族が望む医療措置が受けられなくなるのではないかという懸念が広がっております。脳死は人の死を前提とした法改正がなされることにより、医療の現場等にも波及的に混乱を招きかねず、さらには終末期の医療におけるみとりの在り方などに深刻な影響を及ぼす可能性があります。

 しかも、移植の先進国であるアメリカにおいてさえも、脳死が人の死であるという大前提が揺らいでおり、昨年十二月には大統領生命倫理評議会が「死の決定をめぐる論争」という報告書を大統領に提出しております。また、脳死から心停止に至る期間についても、昭和六十年に現行の脳死判定基準をまとめられた竹内一夫杏林大学名誉教授御自身が、平成十六年の著書、「改訂新版 脳死とは何か」の中で、基準制定当時は心停止に至るまで十五日以上の例がわずかであったのに対し、最近は三十日以上の長期脳死例が明らかに多いという事実を指摘されています。

 今日、国際的に脳死そのものの概念に揺らぎが生じている中、国民に脳死の実態について正確な情報を与えないままに、あたかも脳死は人の死であることを肯定するかのごとき改正を行うことには、強い懸念を抱かざるを得ません。

 同案に賛成する第二の理由は、本人の自己決定を尊重するという現行法の重大な枠組みを維持し、本人による意思表示がある場合に限り法的脳死判定、臓器提供を認めるという点です。

 自らの意思で脳死が死であることを受け入れ臓器を提供するということは、究極の自己決定であり、その尊い意思を尊重するという点においてE案は優れた法制であります。

 A案もA案修正案でも、本人の意思が不明な場合に家族の承諾により臓器提供を行うことを認める一方で、拒否権が保証されていると繰り返し答弁されておりましたが、具体的に拒否権を担保する具体的な仕組みは示されることがありませんでした。その点、大きな不安が残ります。そもそも家族の範囲についても答弁はあいまいであります。A案もA案修正案も、本人の拒否を担保する仕組みを確保していない一方で、親族の優先規定を置いております。臓器提供を受けたいなどの利害関係のある家族が故意に本人の拒否の意思を隠ぺいする懸念もぬぐえず、運用に不安が残ります。この点、E案では、本人の積極的な意思表示がない限りは、意に反して脳死判定、臓器提供が行われる危惧はないという現行法の体制を堅持しております。

 賛成する第三の理由は、実は最大の理由でありますが、特に重要な争点となっております子供の脳死判定基準、被虐待児からの臓器提供を避ける方法と、これはA案でもA案修正案でも触れられていないのですが、子供の自己決定権などをどうすべきか、また親の関与が認められる範囲はどうなるのか、こういったことについてこのE案は、期間を区切り、責任を持って一定の方向性を出すことを明言している点であります。

 本法律案は、五十二人もの同僚議員の賛同により、実効性が担保される予算関連法案として提出されました。この法律が成立すれば、三か月後には、国会の同意により選ばれた十五人の各界の有識者による臨時子ども脳死・臓器等移植調査会が設置され、移植先進国及びドナー不足に悩む国における現地調査を実施し、国民の声を反映するためのアンケートや地方公聴会を行うなど、精力的な活動を開始いたします。そして、一年後には結論が提出されることが法律の明文と予算をもって確実に保証されております。

 特筆すべきは、議論のある子供の脳死臓器等移植についての症例研究について、調査の経費が一千六百万円盛り込まれている点です。現在、臨床的脳死判断でも参考とされている小児脳死判定基準は、厚生労働省の委託研究によるものですが、実質的にわずか十一の症例に基づく基準であり、日本小児科学会が二〇〇七年に実施したアンケートでは、そもそも新生児を含む小児の脳死診断は医学的に可能と思うかとの問いに対して、はいと答えた小児専門医はわずか三一・八%にすぎず、約半数は分からないと答え、不可能であると答えた方も一五・八%との結果となっております。少なくとも外部の独立した中立的な研究機関に委託することが必要であり、E案は外部に委託できるよう予算を取って確実なものとしております。

 さらに、発議者は、国会でも並行して検討を行うと答弁しております。一年後には責任ある立法府の結論が出されるものと確信いたします。

 賛成する第四の理由は、大人の移植についても生体間移植を含む現行法の問題点を検証、検討するとしている点であります。

 これまでの委員会における質疑でも明らかになったように、移植医療は、臓器を提供するドナー、提供に協力する医療機関により支えられているものです。国民が臓器提供について正確な知識を得て理解を深めること、医療機関への人的、物的支援を充実させることこそが現在の運用において最も欠落していることであり、この点を無視して法改正をしたところで臓器提供が増えることはあり得ないと考えます。

 この点、本案では、指定病院の基準の見直しも視野に入れて省令事項とするなど、現行の自己決定を尊重する法制の下で可能な方策について明文で規定しております。

 また、健康な身体にメスを入れることになる生体間移植については、特にドナーの人権を侵害しないように諸外国では法律に規定され、WHOでも規制がより強化される方向にあります。我が国では、臓器の多くを生体間移植に依存しているにもかかわらず、厚生労働省のガイドラインレベルの規制が置かれているのみであり、違反した場合の罰則もなく、実効性が担保されておりません。また、ドナーのその後の健康管理など、国際的に問題となっている点についても対応がなされておりません。

 なお、A案発議者においても、生体移植への依存に問題があるとの出発点に立っているにもかかわらず、A案でもA案修正案でも何らこの点について規定を置いておりません。これらの問題に対応しているのはE案のみであります。

 臓器移植を待ち望みつつ長年にわたる闘病生活を続けておられる方々やお亡くなりになる患者さんが多いことには大変胸が痛みます。私も何とか手を差し伸べたい、この国会で一つの結論を出すことが私どもの責務であるということは折に触れ痛感しております。しかしながら、厚生労働委員会では、臓器不足、臓器の自給自足、あるいは臓器は社会資源といった発言がなされ、臓器が人格を離れた、あたかも一つの物質として扱われていたことに私はいささか違和感がございました。特に、不幸にして脳死状態となられた方の御家族にとっては耐え難いのではないでしょうか。

 脳死臨調を経て、その後の脳死下での臓器提供検証委員会にも設立以来献身的に携わってこられた柳田邦男参考人もおっしゃいましたように、五百個の臓器の一つ一つに人生の悲しみ、人々の悲しみ、家族の悲しみ、つらさというものがこもっているという視点がいつの間にか欠けてしまっているのではないでしょうか。

 患者さんに目を向けることはもちろん大切でございますが、一つの人格を持っていたドナーの存在、そしてそのようなドナーの尊い意思を尊重したドナーの家族の存在が忘れられていたことは、今回の参議院厚生労働委員会の審議を経て改めて気付かされました。

 特にみとりの過程において煩雑な臓器提供手続に追われ、その後も、決断が正しかったのかと悩み、いわれない中傷を受けたり、PTSDに苦しまれるという御家族の苦衷は、法改正にかかわらずグリーフケアとして取り入れていくべき非常に重要な視点であるかと思います。

 さて、現行法制下ではなぜ臓器提供が進まなかったのでしょうか。医療機関への支援体制という問題もありますが、やはり脳死や臓器提供に対する一般の理解が進んでいなかったからではないでしょうか。進んでドナーになろうという意思を持つ方が増えない限りは、いかに法制を変えようとも、家族も提供を拒否する可能性が高く、結局提供は増えないのではないでしょうか。

 この法案をめぐっては、国民的関心が高まる中、国会内外で様々な運動、働きかけがございました。衆議院の採決時には、WHOが推奨する基準との誤解を招きかねないチラシが配付され、参議院の本会議においては、摘出手術をする際に筋弛緩剤などを投与することがありますが、生きている方の痛みを取るための麻酔とは異なりますとの説明がありましたが、事実に反するとの指摘に対して、委員会では答弁者から修正がございました。

 さらに、長期脳死は法的脳死判定を経ていない等の発言が何度も繰り返されましたが、実際には、無呼吸テストを含め法的脳死判定と同等の内容の脳死判定基準をクリアした状態でも、三十日以上心停止しないいわゆる長期脳死と呼ばれる例があることが多くの学会誌で公表されており、発言者御自身がその存在をお認めになりました。

 そして、いま一度、議員の皆様にお考えいただきたいのです。脳死に関する議論、新たな科学的知見などについて正確な情報を提供しないまま、国民に誤った理解の下に提供を迫り、迷っているうちに臓器提供に導かれてしまうという状態は、本当に臓器移植を待ち望む患者さんたちの意思にかなうことなのでしょうか。

 自分の生を長らえさせたいという思いと、他人の死を待たざるを得ないという思いの葛藤に揺れ動く患者さんは、ドナーがすべてを正確に知った上で、自己決定により善意で提供してくれる臓器であるからこそ喜んで受け取れるのではないでしょうか。ドナーに感謝してその後の新たな人生への一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

 これらの点について、現行の枠組みの中で積極的に問題点を検討、検証し、一年間と期限を区切って責任を持った解決策を提示しているE案こそが、一見迂遠なようでありながら、結局は社会すべてに受け入れられる案だと確信を持って、私の賛成討論を終わります。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

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