ニュージーランド2日目 首都ウェリントンでクリス・カーター前教育相と懇談
2009年12月15日
ニュージーランド「教育改革」調査2日目。午前中、オークランドから飛行機に乗り1時間で首都ウェリントンへ。ニュージーランド北島の南端にあるウェリントンは港町でもあります。夏だというのに風は冷たく寒いくらいでした。南半球は南に下がるほど南極に近くなり気温が下がります。
さっそく、ニュージーランド教育省を訪ね、カレン・シィウェル次官と面会。シィウェル次官は教師出身で高校の校長も務めていたとのこと。ちょうど国会開会中で簡単なあいさつを交わして退席されました。
代わって、スティーブ・ベンソン教育省国際部シニアマネージャーから、ニュージーランドの「教育改革」について説明を受けました。
ベンソン氏の説明で印象深かった点は2つ。ひとつは、「ナショナル・カリキュラム」です。そこには“教師が何をどう教えるか”ではなく、“生徒にどうなってほしいか”が示されているといいます。
たとえば、「9〜10歳」の子どもの「科学」のカリキュラムでは、@理解する力、A探究する力、B科学の言葉で対話する力、Cどうしたらいいか知っている知識、を子どもたちが身につけることが目標で、自分たちが生きている世界、つまり地球、宇宙、生物、物理、天文などが対象になる、という具合です。
「それをどのように教えるかは各教師に任されている」とのことでした。“生き物の一生はそれぞれに違うことを理解する”ために、魚と昆虫を使うのか、それともほかの生き物をつかうのかは教師が自分で選択します。
こうした「ナショナル・カリキュラム」は、教師や専門家の意見を広く取り入れ、原案から3年かけてつくられたそうで、「教師にも人気が高い」らしい。日本の「学習指導要領」とはだいぶちがうようです。
ベンソン氏の話で興味深かったふたつ目は、「ニュージーランドが『教育改革』にとりくむことになったキッカケはなにか?」との問いに対する答えです。氏は笑いながら「ほとんど忘れました」と答えました。
そして、20年前の「ピコ・レポート」(教育に関するレポート)では事務的な面での改革が強調された。たとえば学校の窓ガラスが割れた場合、政府機関に要請しなくても各学校で交換できるようにした。ようやくいま、「学ぶこと」「教えること」が改革の焦点になってきた、と説明してくれました。
話を聞きながら、“ニュージーランドの「教育改革」とはこういうものだ”と決めつけるのは正しくないのではないか?常に子どもたちを前進させるために、変革し続けていく姿勢こそ真髄ではないか?と感じました。
★その後、全国学校運営理事会協議会のレイ・ニューポート事務局長を訪ねました。全国2600の学校にある学校運営理事会(BOT)に、理事を選挙で選ぶ方法(3年に1度全国で一斉に選挙が行われます)や、教師の採用、校長と住民の協力などをアドバイスしているとのことでした。
★続いてニュージーランド国会へ。クリス・カーター前教育大臣(労働党)と懇談しました。カーター氏は、一院制のニュージーランド国会に5回当選。政権交代が起こる08年11月までの18カ月間、教育大臣を務めました。現在も国会議員です。政界入り前は、16年間中学・高校の教師をしていたそうで、穏やかな話しぶりの中にも、教育への深い思いが伝わってきます。
カーター氏は、1980年代に様々な規制緩和が行われ、学校に関してもロンギ首相によって、@地域の人がもっと学校にかかわるようにしよう、Aカリキュラムや資金分配も改革しよう、という2本柱で「教育改革」が提起されたといいます。
9年間かけて、校長の給与を42%、教師の給与を36%も引き上げたと聞いてびっくり。カーター氏は、「いちばん大事なのは教師です。質のよい教育は、訓練された教師がいるかどうかで決まります」といいました。まさに教育という営みの真理だろうと思います。
教育大臣として、「あなたの学校で誇りに思っていることを聞かせてください」と300の学校を飛び込みで訪問したというカーター氏の言葉には重みがありました。
私が、「ニュージーランドの『教育改革』について2つの感想を持ちました。子どもの発達が中心にあることと、改革には終わりがないことです。制度の改革から、学ぶこと・教えることの改革へと発展しているんだなと思いました」と述べると、カーター氏は、「そうです。終わりはありません」とにっこり。
子どもたちの発達のために、私たち大人が努力して最もよい環境を提供することに国境はありません。大変有意義な懇談となりました。
ニュージーランド国会議事堂前で記念撮影。佐藤団長、高橋利弘・在ニュージーランド大使と。
【きょうのおまけ これがキウイバンクだ!】
民営化した郵便貯金をニュージーランド政府が買い戻してつくられたキウイバンク。ぜひ覗いてみたいと探していたのですがウェリントン市内で見つけました。
看板には、民営化された「post bank」の文字の上から緑色の「kiwi」のロゴが貼り付けられていました。
各種パンフレットにはすべて「kiwi bank It's ours」(キウイバンク 私たちの銀行です)と記されています。